きみの声をとどけたい 感想   コトダマは電波に乗せて

 8/25日(金)公開の映画「きみの声をとどけたい」。公開初日の10時からという気合の入った回を見てきたので、その感想記事です。

 控えめにしていますが、後半は軽いネタばれ内容になります。展開自体はネタバレ済みでも楽しめるとは思いますが、いやな人はここでサヨウナラ。

公式はここから 

kimikoe.com

 感想 

 良くも悪くもひねったところのないド直球な青春映画君の名は。のような壮大さはないがこじんまりとした分おさまりがいい話になっている。CMを見てれば「寝たきりのお母さん」と「夏に起こった奇跡」というフレーズでお母さんが目覚めるというオチまで見えてしまうようなベタな作りだが、そこまでの流れが自然なので予定調和も気持ちよい。キャラクターに感情移入ができれば最後できっちり泣けるいい映画である。

ラジオという題材の使い方 

 この映画ではラジオが重要なファクターとなっている。ラジオを題材にした映画というと量は少ないが良作の多い印象だが、この映画でのラジオは既存の有名作*1とはまた違う使われ方になっている。

 まず、この映画に出て来るラジオはミニFMと呼ばれるもので、放送局免許がいるようなラジオとは微妙に違う。半径100mちょっとの範囲でしか聞けない低出力のもので、学園祭で放送部が行っているような学内限定放送が一番近いイメージ。なので「リスナーとDJ」というラジオ特有の関係性についてはテーマのうちにほぼ含まれていない。

 ではこの映画におけるラジオの役割はなにかというと「本音を話す・伝えるための装置」となる。なぎさ・紫音・かえで・夕。全員がそれぞれ相手に直接言えない本音があり、それをラジオを通して伝える行為が話の原動力となっている。本気の言葉=コトダマを電波に乗せて伝える、それがラジオの役割である。

 この点は特にかえでと夕のストーリーで端的に示されている。最初にかえでから夕へのおもいが電波に乗って語られ、それを夕が聞いてかえでに会いに行く。しかしタイミングの問題でかえでは直接対面した夕とは口論になってしまう。その後、今度は夕からかえでへ電波に乗せて本音が語られ、夕がそれを聞くことで二人は和解する。電波を介して近づいた二人が直接会うと反発し電波を介すると再び近づく。この構図は映画におけるラジオの役割を端的に表しており、二人の話は良エピソードといってよい。

 そのほかにも全体的にギミックとしてラジオがうまく機能しており*2、題材として十二分によさが生かされていると思う。

ストーリーについて 

 話としてはベタな青春もの。明るく子供っぽい主人公なぎさと暗めで物静かな紫音の組み合わせを主軸にしており、紫音の抱えている家庭の問題を最後に解決して大団円。分かりやすい話になっている。もう一つの軸となるのはかえでと夕というなぎさの幼馴染ふたりの確執と和解の話。このサブストーリーがけっこうエモいところがこの映画の評価を底上げしている。二つの話もそこそこうまく絡められておりバラバラ感はない。

 しかし、全体的にナレーションで時間経過を説明している部分が多く、総集編映画っぽさは否めない。*3なぎさのもう一人の幼馴染である雫や途中から合流する2人組のキャラについて掘り下げが弱いのも時間の足りなさを感じる。映像だけで伏線を張ったりする場面も多いので、意外と画面に集中してないとキャラの言動(特に紫音の)が唐突に思う箇所がある。

 とはいえ、感情の流れも大体予想できる典型的なものなので多少唐突でも分からなくなるようなことは何もない。素直に見てれば素直に感動できる、いいストーリーである。

キャラクターについて

 どんでん返しを売りとしてたりはしないので、映画を気にいるかどうかはキャラクターへの好感度によるところが大きい。

 こどもっぽさの残る主人公なぎさは高校二年生とは思えないほど言動が幼いが悪気を一切感じさせない。もう一人の主人公紫音は理知的だが暗くて友達のいない感じで優しい。どちらもテンプレだが嫌われる感じがしない。

 なぎさの幼馴染であるかえで、雫、夕。雫はストーリー上あまり掘り下げがないが、かえでと夕は準主役。俺っ子のかえでとしっかり者なお嬢様の夕というカップリングは個人的にかなり好みであり、この二人のストーリーが良いのもあって特に印象的なキャラとなっている。

 一番クセのあるキャラクターは物語中盤から出てくる自称ラジオオタクあやめ。ラストで歌われる曲を作るまでに必要なキーパーソンなのだが、登場が「ラジオとはどうあるべきか、という説教のメールを送りつける」という面倒なリスナー感丸出し。その後もエキセントリックな言動が多く、ラジオが好きでこの映画を見に来ていたりするとちょっと痛さに耐えられないかもしれない。コメディ要素担当とはいえ、このキャラについても時間があればもうちょっと深掘れたと思う。

ちょっと辛い点

 メインキャラクターは紫音以外が新人声優で揃えられており、冒頭数分はちょっと違和感がある。とくになぎさは高校生というには幼すぎるくらいの声質のため耳馴れに時間が必要。なぎさの無邪気さが見えるにつれこの幼さも変には思わなくなるので我慢してれば問題はない。

 音関係で言うと挿入歌が多いのもちょっと耳障りなところがある。特に冒頭。タイトルが出てくるまで流されるオープニング曲はひどい。面と向かって本音の言えないなぎさの心情が現れるシーンのはずなのだが、曲の明るさが雰囲気を壊している。

 所々の問題は冒頭の数分に集約されているので「つかみが肝心」と思う人にはかなりきついと思う。基本的に中盤に入るころには辛さはなくなるので頑張ってほしい。

とりあえず見に行こう

 おそらくワンクールで作りたかったアニメを90分の劇場版にしたのだろうと思われるような内容ではあるが、その惜しさ以外の難点は皆無。話はわかりやすいし感動できる終わり方もする。話を冗長にする恋愛要素がないのもよい。不愉快なセクハラも分かりづらいギミックもないので、デートでいくなら「打ち上げ花火」よりこっちのほうが断然おすすめ。家族連れでも安心して見られる。ラジオを「心からの言葉=コトダマを伝えるための道具」として描写している点も個人的に非常に好きなところであり、ラジオ好きの面々にも見に行ってもらいたい。

 初日の朝10時の回とは言え観客が10人ほどしかいなかったのはとてももったいないので、ぜひ劇場で鑑賞していただきたい。損はさせない。

*1:注釈:グッドモーニングベトナムのような反戦映画やラジオ・デイズのような青春映画、ラヂオの時間のようなコメディ映画

*2:「アニメ発の声優ユニットに歌唱させるためのオリジナル楽曲を出す」という課題をJASRACばりの著作権順守意識を見せることで自然に処理したところとか、ラジオという設定がないとできない。

*3:一応ラストのラストで「この話が大人になってラジオDJになったなぎさの回想だった」ことがわかるため、ナレーションの多さは説明がつかなくもない。このオチのつけ方は割と上手だと思う。