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少し前のアニメ感想とか評価をしてみよう 第3回 「うた∽かた」

 前回同様、リクエストに応える形での感想第3回です。前回より更に題材が古くなったけど、2000年代だから最近ってことでいいよね。2010年代以降とか書かなくても巷にあふれてるし。

 今回の記事も、流れとしては前回同様です

・あらすじと出自:あらすじ、その他の周辺情報。

・各話詳細・感想:各話についてちょっと詳しい感想。ネタバレもしてます。

・全体の感想:全話通してのまとめの感想

 視聴前の下調べ、視聴後の感想探しなど用途にあわせて適宜飛ばして読んでもらえれば幸いです。ネタバレはある程度避けますが、皆無では無理なのでそこら辺は自己責任でお願いします。

あらすじと出自

公式サイト:http://www.uta-kata.com/ (開いたときに音声が流れるので音量注意)

 あらすじ:舞台は夏の鎌倉。中学二年生の一夏は鏡から出てきた謎の少女、舞夏と出会う、舞夏の頼みでジンと呼ばれる精霊を集めることになった一夏の夏休みの物語が始まる。

 あらすじだけ書くと変則的な魔法少女ものの様だが、実態はかなり異なっている。思春期の少女が不思議な現象を通して成長する現代ファンタジー風味のジュブナイル作品と言った方が正しい。詳しくは後述するが、魔法少女路線は期待するとかなり肩透かしを食らうので要注意。

 放送は2004年10月~12月。年代だけ言われてもいまいちピンと来ないかもしれないが、BLEACH焼きたて!!ジャぱんガンダムSEED Destinyスクールランブル(1期)が放映開始された頃である。こう書くと本当に古さがにじみ出てくる。これらは夕方アニメだが、深夜アニメで言うと砂ぼうずや岩窟王、ローゼン1期、なのは1期と同じクールである。

 制作はハルフィルムメーカー(現在のTYOアニメーションズ)。ハルフィルムメーカー名義ではARIAの1期2期やたまゆら1期、スケッチブック、どくろちゃん2、ケメコデラックス。TYO名義だとたまゆら2期以降やゆるゆり3期を作ったところである。当時だとプリンセスチュチュの制作会社といったら通りが良かったところか。

 上記の代表作だと佐藤順一監督がらみ(あるいは水島努監督がらみ)のようだが、この作品には関係ない。監督:後藤圭二、構成脚本:きむらひでふみ、キャラデザ:門之園恵美gimikという制作集団が中心となっている。gimik体制では「キディ・ガーランド(2009)」「キディ・グレイド(2002)」を作っている。

 小ネタ、検索する上での注意なのだが、うた∽かたの間にあるマークは相似を意味する数学記号である。一夏と舞夏の関係性を暗示しているともとれる記号であり、∞(無限)とは似て非なるもの。一部ファン界隈では間違えると怒られるので注意がいる。

各話感想

1話 

 一夏と舞夏の出会いの話。鏡の中から出てきた舞夏に「精霊(ジン)集め」を手伝うよう頼まれ、実際に陽の精霊と同化して手に入れるまでの話となる。一夏の影のある態度や両親・謎の美女の意味深なセリフなど、ブラフも含めて1話から伏線が多数ある。

2話~5話

 夏休みのイベントを通して精霊集めをしていく話、前半戦。各話で「人と人の感情のすれ違い、心の弱さからくる傷つけあい」を軸にした物語が展開される。展開はずっと陰鬱として暗いがオチは明るく終わるものが多く、後半と比べるとまだ気楽。

 2話が恋人同士のすれ違い、3話が昔の友人との確執、4話が真面目な主人公とほかの生徒の衝突、5話が恋のいざこざ。どれもいい感じにどろっとした青春ものとなっている。

 毎回モノローグや家庭教師を務める大学生の双子の意味深なセリフがはさまることで後半への伏線が張られているのも見どころ。

6話~8話

 ジン集めしつつの青春もの単発話後半戦。後半は一夏によりフォーカスが当たっていく。同化を繰り返した影響か、感情の起伏が激しくなるとジンの能力が暴走するようになる一夏。その暴走が良心を苦しめ、さらに感情を揺さぶって暴走を促すという悪循環が話数ごとに大規模化する暴走を通して描かれる。伏線や意味深なシーンも増えていき、だんだんと舞夏の言っている「精霊集め」という話にもなにか裏があることが察せられてくる。

9話~11話

 ジン集めしつつ終盤戦。一夏のどこか寂しげな雰囲気が夏休み明けの引っ越しにあること、それをみんなに隠していたけどみんな実は知っていたことなど、ここから徐々に伏線が回収されていく。2話~8話までの話がそれぞれ「7つの罪(おそらく七つの大罪)」と対応した人の醜さを表してるなど、話の骨子の部分も見えてくる。9話の終わりで一夏に真実を話そうとした双子の片割れが石にされたり、「試練」という言葉が出てきたりなど、増えていく謎もいくつかあり、最後の話に向けて加速していく。

12話

 テレビ放送分では最終話。「試練」と言われるものの内容が明確に語れることで全ての伏線が回収される形になる。「七つの大罪に対応した人間の美しさと欠点の双方を14歳の少女に見せた上で世界に失望するかどうかテストする」という大変悪趣味な試験であり、2~8話の内容もその目的に沿って仕組まれたものだとわかる。

 今まで見てきた人間の汚い部分や弱い心を持った自分に多少なりとも失望していた一夏は、ルールに従い「世界」と「自分」のどちらかを消滅させるよう選択を迫られる。一夏は悩んだ末「人は弱い心、醜い心を持っているが、それを変えていくことができる。変えていかないと生きてる意味がない。今がすべてではない」(要約)という結論に至り、どちらも選ばないと答える。この一夏の一連のセリフはアニメ屈指の名シーンであり、さらに言うとその後のシーンで「模範解答」と評されるだけあって作品のテーマといっても過言ではない。

 そのようにして結論を得た一夏だが、選ばなかったペナルティとして死にかけることに。舞夏の命をもらうことで生きながらえたが、舞夏は消えてしまう。ラストは結局引っ越しをやめてとどまることにした一夏の姿が描かれており、なんだかんだで明かるく終わる。

13話(OVA

 すべてが終わった後の冬のある日の話。一夏の誕生日に合わせて一日だけ舞夏が戻ってくる。1話の裏話などが語られたうえで、改めて一夏と舞夏の友情が確かめられる。

全体の感想

 本来なら「いい点」「悪い点」にわけて批評するのがわかりやすいのだが、このアニメについてはその形で評価するのは大変難しい。このアニメのいい点と言うべき構成の技巧的な巧みさがそのまま一見での取っつき辛さという悪い部分に直結しているからである。とにかく順を追って評したい。

鬱アニメという評価について

 まず外的な誤解を解くところから。

 このアニメについてGoogleなどで検索すると「鬱」という言葉が上のほうにサジェストされるが、一般に「鬱アニメ」といわれるような悲惨な展開を期待すると当ては外れる。作中、危険な目に会うことはあっても明確に誰かが死ぬことなどはない。舞夏の分の命を一夏に与えるという終わり方についてもそこまで悲壮感があるわけではない。

 鬱といわれる所以はおそらく「人間の心の弱い部分、汚い部分を見せる」という2話~8話で一夏にかせられた試練の内容によるものだと思われる。が、この展開もあくまで人間同士のいさかい程度のレベルなので、超常的な存在から押し付けられる理不尽名設定などと比べると可愛いものである。むしろ毎回ちゃんと善の部分を見せる形で明るいオチがつく分、ずっとキャットファイトや煩悶を続けるようなマリーあたりが書く青春物よりも軽い印象がある。

 最後、一夏が受けてきた試練はこれからも様々な少女がかせられていく試練となることが示唆されるので、この点をもって鬱と言えなくもない。しかし、それはやや強引な解釈である。試練自体は悪趣味だが、あくまで人の多面性を見せてるだけで、そこに一方的に死を押し付けてくるような理不尽さはない。どっかの白い小動物とか人を不幸にするためのカードゲームと比べたら良心的な方。

 そんなわけで、鬱という言葉に臆することも期待することも特に必要ない。癒し枠ではないが人死にも出ないので、気楽に見ることができるアニメではある。

ヴィジュアル的な点

 目の大きさ、顔の輪郭や色の塗り方など、全体的に絵柄が古い。作画が崩れるといったことはなく綺麗なのだが、単純に今のアニメになれていると受け入れられない人も多そう。

 精霊と同化した際に一夏が着るコスチュームは毎回違っており、1話ごとにゲスト絵師が書き下ろしている。そのため、設定の面では結構豪華なビジュアルなのだが、アニメでは色の塗り方や変身シーンの少なさも相まってあまりデザインの良さを楽しむことはできない。EDでは毎回コス担当の絵師によって書き下ろされた絵が使われているので、飛ばさず見ることで補完することをお勧めする。

構成の功罪

 上述したこのアニメの評価の難しいところについて。

 このアニメは開始時点で二つの重要な設定が伏せられており、8話くらいまでそれらを暗示するようなセリフが散りばめられている。この隠された設定が2つであるというところが構成上のミソ。あからさまに意味深なセリフが多数出てくるのだが、そのセリフがどっちの設定に関わっているかわからないため、展開を予測させないようになっている。

 例えば、1話で両親が口にする「最後の夏」というセリフは一夏が夏休み明けに海外に引っ越さなければいけないという1つ目の設定に関してのもの。なのだが、舞夏のかかわる2つ目の設定が色濃く暗示されるため、まるで一夏が死ぬ運命を両親が理解しているかのように取れてしまう。

 このように、2つの設定を伏せることで深読みすると逆にわからなくなるミスリードが仕掛けられており、初見での看破はほぼ不可能。2回見直して初めて分かるようになっており、その点で構成は巧みと言ってよい。

 しかし、このミスリードが効きすぎているのがこのアニメの問題点ともなる。

 全話見ればわかる通り、1話で舞夏が語る同化することで精霊を集めるという話は一夏に課せられた試練という2つ目の設定をカモフラージュするためのもの。人間の汚い部分・弱い部分を見せられて世界に絶望するかという内容を隠すために一夏に嘘の説明をするのは話として自然なのだが、問題はこの虚飾に初見の視聴者まで騙されてしまいかねない点にある。

 この点に引っかかってしまうと、2話以降、集める対象であるはずの精霊が前触れもなく唐突に表れるため、違和感が強く残ることになる。伏せられた試練の内容を踏まえれば一夏の巻き込まれるどろどろな話こそが本編だとわかるため、前振りとして長めに取られるのも納得できる。しかし、それがわからない初見では関係ないように思える話が続いたうえで肝心の精霊が都合よく出てくるので、話として腑に落ちないように感じられる。

 このようなわけで、このアニメは初見では非常にわかりにくいが最後まで見るとわかりにくさも含めて演出だったとわかる作品であり、一概にいい悪いを断じることは難しい。上手く作られたこの構成がそのままアニメとして見たときのわだかまりに繋がるところは、それ自体がこのアニメの重要なテーマである「善悪の表裏一体性」とつながるので、その点も含めて非常によくできてると言ってもいいのかもしれない。だが一見に対して優しくないというのも同時に厳然たる事実としてあるので、その点ではやはり褒められたものではない。

総評

 上述した構成自体が抱える問題はあるが、その点をクリアすればかなり秀逸。

 7つの大罪と対応した人間の心の弱い部分、汚い部分を描く前半はどの話数もただのいい話やエンターテイメント化された悲惨さに陥らず、バランスが取れている。伏線が回収されつつ話が収束する後半は引き付けるスピーディさがある。

 特に12話は素晴らしい。一夏が出す「人は弱い心、醜い部分を持っているが、それを変えていくことができる。」という結論はメッセージ性がとても高い。「変えていかないと生きてる意味がない。」というセリフは作中屈指の名言。個人的にはこのシーンのために見るだけの価値はある。

 描かれてるテーマやモチーフ的にかなり文芸寄りなアニメと言える。 単純に萌えだったり悲惨な鬱展開が見たくて見ると構成の問題でついていけないと思われるので注意。1クール12話でちょっと一筋縄ではいかない感じのアニメが見たい人にはぜひ勧めたい作品。深読みは逆に筋を見誤るので、あまり考えず出てきた話を追うだけにとどめた方が見やすい。