少し前のアニメ感想とか評価をしてみよう 第1回:恋と選挙とチョコレート

 少し前のアニメを勝手に紹介しようというタイトル通りの企画です。ツイッターでちらっとアンケート取っておきながら全く関係ない作品を第一回に持って来てるあたりから、適当さを察せてもらえるとありがたいです。栄えある第一回に選んだこの作品も特に好きだからとかじゃなくてこの前一挙放送をしてたのを久しぶりに見たからです。

 追記:この記事を書いた後に舛添さんが辞職して東京都知事選がこの夏行われることになり、ちょっとした偶然に驚いています。下にも書いてある通り、選挙戦略・戦術についてちょっとだけ詳しくなれるくらいには選挙活動についてしっかりとした描写がされてる作品です。このアニメを見たところで都知事選に直接役に立つものはないですが、戦略を理解したうえでそこに乗らない投票行動をするくらいのことはできるようになると思います。

 今回の記事、全体の流れとしては

・あらすじと出自:あらすじに加えて、放送当時の様子、人気具合を覚えてる限り。

・各話解説:各話ごとのちょっと詳しいあらすじと感想。全体の中でのその話の立ち位置などの説明。とりあえず飛ばして全体の感想を見てもいい。

・全体の感想:いい点・悪い点・総括の順でまとめの感想

となっています。視聴前の下調べ、視聴後の感想探しなど用途にあわせて適宜飛ばして読んでもらえれば幸いです。ネタバレはある程度避けますが、皆無では無理なのでそこら辺は自己責任でお願いします。

あらすじと出自

www.koichoco.com

 主人公が部活を守るため生徒会長を目指し学内選挙に出馬するというのがおおまかなあらすじ。基本的にこの生徒会長選挙戦を中心に物語は進んでいく。原作はゲームメーカーspriteの処女作。キャラごとのストーリーが個別にある一般的なエロゲーであり、アニメのストーリーは複数ある話を一つにまとめたものになっている。この形式はゲーム原作では一般的であるが、恋チョコの場合は選挙戦という要素を明確な軸として各エピソードを組み込んでいるため思ったほど話は散漫でない。

 放映は2012年7月~9月の1クール。じょしらく、TARITARI、人類は衰退しましたココロコネクト、SAOなどこの年を代表するような作品達と同期の放送であり、これらの影に埋もれてしまった感は否めない。放送枠はTBSの木曜深夜前半。TBSアニメのお約束通り全12話+本編とは独立した特別篇1話という形を取っている。この一般的な13話より1話少ないという制約は少なからず全体の構成上の問題(詳しくは感想で)に影響を与えていると考えられるため、放送枠の面でも多少ハンデがあったといえる。ハンデと言えば、放送枠がTBSなので乳首や裸といった露骨にエロいシーンが挟めないあたりも、地味なハンデだったかもしれない。

 制作はAIC Build。はがないや俺妹1期など、本数は少ないが安定してる制作会社であり、全体を通して絵の崩れなどはほとんどない。監督は喜多幡徹、音響が本山哲ということで、ここら辺は制作会社つながりであるはがないNEXTと同じ布陣になっている。構成・脚本は高山カツヒコ。珍しく全話の脚本を彼自身が担当しており、話の一貫性、構成上の安定感がとても高い(詳しくは感想を参照)。

各話感想

1話 「廃部!」

 前半では主人公の日常、学校生活など日常の風景が描かれる。幼馴染である千里とのイベントあり、所属する部活「食品研究部(略称ショッケン)」のおかしなメンツとの絡みありで、典型的な滑り出し。

 後半。来期の生徒会長候補マニフェストによってショッケンが廃部されることが明かされる。これを受け、廃部回避のためダメモトで自分たちの中から生徒会長候補を立候補させようということで話が固まって次回へ続く。現生徒会長の立場や対立候補のスタンスなど、伏線として働く要素が各所に散らされている。

 キャラ見せ、ヒロイン紹介を兼ねた前半は1話としてはオーソドックス。後半の廃部の話から選挙戦に候補を出そうと話がまとまるまでの流れは設定・世界観の説明と話の展開が両立されていてなかなかテクニカルである。アニメ全体の目標が1話で示されるため、前情報なしでも分かりやすく見やすい。

2話 「出馬!」 

 前回「ショッケンから生徒会長候補を出そう」ということで話を引いていたが、誰を推薦しようかというところで主人公にその役目がおしつけられる。これに反発した彼がショッケンと離反した後、現生徒会長の八雲やショッケンメンバー以外のヒロインをとのやりとりを通じて立候補の意思を固めたところで終わり。あらすじに書いてある「選挙に出馬する」という内容がここで固まるため、事実上の始まりはここからになる。

 あらすじの中の話ということで、半分近くは前回できなかったヒロインや登場人物の紹介を行う内容になっている。1話がショッケンに所属するヒロインたちとの関係紹介だったのに対し、会長選の有力候補・部活に所属してない下級生というショッケン以外のヒロインとの出会いや絡みが描かれる。前回の引きに対し主人公が「俺が出馬するのかよ」と反発する流れはちょっと疑問もあるが、ショッケンメンバーのあからさまな適当さを考えると妙に納得してしまうところもあり、欠点としては些細なところか。印象的なのは、後半ラストで結局ショッケン内部の選挙で候補を選出しようという話になり、主人公としてはメインヒロインである千里を推すつもりで思いっきり自分を推薦するような演説をしてしまってるシーン。典型的な「前振りとオチ」というギャグの流れだが、中村さんの演説が非常に説得力を持っているため分かってても笑えてしまう。この演説能力の高さはこれ以降も機能する設定のため、その点でも重要なシーンである。

3話 「戦略!」

 前回のラストで出馬の意思を固めた主人公たちだったが、実際に選挙に臨んで何をするべきかなど具体的なところはさっぱりな状態。そこに与党でありながら候補を擁立できない現生徒会長の派閥があらわれ、主人公を応援したいという旨を告げてくる。話し合いの結果、他の派閥に与党の座を奪われたくない彼らから選挙戦のノウハウを提供してもらう協力体制が確立される、というのが大まかな話の流れ。ここに加えてヒロインのひとりである対立候補の皐月とのイベント、主人公と顧問のただれた関係のシーンが挟まれる。

 タイトル通り、選挙の「戦略」の部分が解説される回。本編の半分くらいが本選挙前に候補を絞るための予備選挙を通過するための戦略説明についやされている。言い方を悪くすると説明ばっかりの回だが、セミナー形式でうまく興味を引くような形になってるのでそういうものにまったく興味がないかぎり退屈ではない。むしろ面白い。もっとも、この選挙戦略の内容がどのくらい効果的なのかというのは疑問が残る。また、主人公を応援する与党派閥、対抗する野党派閥も校内でどのくらいの勢力があり具体的にどういう立場にあるのか言葉での解説はあるが実感はいまいち伴わないため、戦略の説明が抽象的な内容だけで表層的に流れてしまっている感じはする。

4話 「資金!」

 選挙戦にむけて資金不足を解決するため、予備選で売る物販品について検討する面々。話し合いの結果、主人公特製のお菓子を高単価で売るという話になる。大筋のお話としてはこの資金面の問題解決にパンフレットの制作をするというものになっている。ここに加えて、ヒロインのひとりである1年生の青海に対するイジメのシーンが何回か挟まれる。

 このアニメの大きな問題点の1つに関わる、ヒロインへのいじめが本格的に描かれる回。すれ違いざま男子生徒に「臭い」と言われるはまだしも、後半は「パンツを脱がされてびしょびしょにして捨てられてる」というほとんど警察案件となっている。体臭という身に覚えがあるもの、女子同士でパンツを脱がされるという重松清みたいないやらしさのあるものと、いじめの描写が妙に身に迫るものになっている。正直迫真すぎて嫌な思い出がフラッシュバックした人もいそうなくらいである。選挙戦の非現実感に対してこのいじめの現実感がそぐわないと思う視聴者も一定層いそうな点で、このアニメの問題点が少し見える回である。もっとも、問題の本質はこの先の処理にあるのだが。

5話 「祭典!」

 前半はショッケン内部ヒロイン、留年した1個年上の同級生みーちゃんについての生い立ちやキャラクターの説明。ここで出てくる謎の妄想日記は後半と次の話につながるファクターとなっている。後半は予備戦当日の話。資金稼ぎのための物販ネタを回収する。最後に主人公が演説に向かう際、原稿をみーちゃんの妄想日記と取り違えるという事態が発生して、引きとなる。

 次の回への強いひきがある回。5話と6話で実質的にひとつの話になっている。サブヒロインであるみーちゃんの主人公と千里への思いが分かる回でもあり、この3人の関係性が後半からの展開で重要となるため伏線・前ふりとしても重要な回。しかし後半の物販イベントでのはちゃめちゃが過ぎるため、前半があまり印象に残りにくいという問題点が少しある。

6話 「開票!」

 5話に引き続き、予備選挙当日の話。前半は対立候補ふたりの演説。ここで各陣営が取っているスタンス、戦略、おかれている人気の状況がわかる。後半は主人公の演説シーンを挟んだ後、開票結果を見守るシーン。ここでは主人公だけでなく、他にもう一人現れた無所属候補が予備選を通過するかどうかという点も話に組み込まれている。結局その候補はぎりぎりのところで通過ならずとなるが、この結果をうけて現生徒会長の派閥内に仲間割れがあることが示唆されて引きとなる。

 前半の一つの山場が終わる回。主人公の演説は原稿がまったく別物な上に壇上に上がる際にすっころんで顔面を打つというハプニングを起こすため、完全に場を盛り上げるパフォーマンスになっている。演説の後半はまるっとカットされていたが、そもそも前半部分もゲームでは存在しない完全にアニメオリジナルの要素らしい。とてもそうとは思えない自然な繋がりになっており、中村さんのノリノリの演技も光っている。このアニメの中でも特筆すべき印象的なシーン。開票時に唐突に表れた対立候補は顔も出ない存在だが、話の緊張を保ちつつ、主人公たちの後ろ盾が一枚岩ではないことを示唆するのに上手く機能している。この内部分裂は9話以降の鍵になるため、話全体のなかでも重要な伏線になっている。

7話 「合宿!」

 部活ものでは恒例の合宿イベントの回。前半はショッケン陣営が引き続き厳しい戦いを強いられてることと、これからの戦略についての説明シーンが占める。そこに加えてメインヒロインとの関係の進展も少しだけ見られる。後半は顧問と対立候補ヒロインの東雲姉妹二人組とのお話。奔放な顧問である姉に振り回されつつ、対立候補である妹と部屋で二人きりな状況に突入したまま引きとなる。

 7・8話にまたがって東雲姉妹のお当番回。他のヒロインと違ってこの二人は明確にお当番回と言えるものが存在する特別待遇となっている。黒髪ロングヒロインの特権といいうべきか。正直、なぜ皐月が仮にも対立候補である主人公にここまで心を許してるのかはちょっと説明不足なんじゃないかという感じはする。2話で立候補を促したのが彼女とはいえ、この余裕の態度は自信の表れといっていいのか。そのほか、全体的にサービス回のようにドキドキさせるシーンが多いが、温泉のシーンはメインヒロインの千里の分しかないという珍しい仕様になっている。

8話 「真実!」

 前回の流れを汲んだ、東雲姉妹のお当番回。前半では部屋にかくまわれた主人公と皐月のいちゃいちゃ、後半では皐月と葉月の主人公を巡った争い。前後半通じてこの二人の家庭事情・出生の秘密が明かされる。最後は和解したうえで皐月の好感度が振り切った感じで終わってひきとなる。

 お話の流れとは別で、ほぼ完全に独立してる回。後半に語られる東雲姉妹の家庭事情だが、正直ここまでほとんど伏線がないのでかなり唐突な印象。「確執がある」ということは示唆されているが、母親が違うというのはここで初出しの情報。更にこれを受けて「実は二人はおなじ母親の娘でした」という事実が明かされるが、この二段階の開示はいくらなんでも性急すぎる。確執の原因が示されるとほぼ同時にその部分の誤解がとかれる形になっており、ほぼ機械的な処理と言われても仕方ない。お話の本筋に全く関係ない部分と考えるとそれでもいいのかもしれないが、この後の描写不足と照らし合わせるとここでお当番エピソードの消化に使ってしまってるのは勿体無い感じが強い。

9話 「事故!」

 現与党派閥の治安部が失墜した原因である大沢がアバンで登場。彼女の復学から全体に不穏な動きが多くなる。それと同時にショッケン内部、主人公の周りでも青海のいじめ問題に関連したいざこざをきっかけに、千里のイライラが加速していく。メインヒロインの精神的な不安定さと大沢の暗躍が加速した結果、主人公が車に吹き飛ばされるというショッキングな引きで終わり。
 7・8話では止まってた選挙の話が大沢の登場から一気に加速する。この大筋はきな臭いが結構面白く、最後に主人公が事故に巻き込まれるのはとても引きとして強い。しかし、せっかくEDのイントロをキャンセルする演出をしてまで挟んだ引きなのに次回予告で思いっきり生存がばれるのは、ギャグとしては面白いが真面目な話としてはやや手落ちである。まあここで主人公がどうかなったら確実に話が終わるので、生き残ってるのは当たり前ではあるが。

 この話で一番の問題はやはり青海さんのいじめに関連するやりとり。このいじめネタは本来ヒロインである青海との関係を深めるための要素なのだが、ここでは千里と主人公の対立を生むためのギミックとして使われてしまっている。現実でもかなり厳しい問題であるいじめネタを話の中で解決すべき問題ではなく、ただの事実としてギミックに用いるというのは非難されても仕方ない点。そしてそれに加えて対立の結果メインヒロインがいじめを必要悪・しかたないことのように言い出すのは好感度がだだ下がりになるので非常にまずい。このように、話としては急転するが同時に難点も浮き彫りになる回である。

10話 「錯綜!」

 前半、予告のとおり主人公は無事だが、千里の精神が壊れる。元々不安定だったが、ここで完全にブレイクしてしまう。死んだ弟と主人公を重ね合わせて精神の安定を保とうとした結果、主人公と完全に決別するかたちになってしまう。確執を抱えたまま、後半は選挙戦のファクターである、現会長の周辺の話がピックアップされる。治安部のスパイの実態や1話のアバンで出てきた謎の少女が会長の妹であり、植物状態であることなど、学校・選挙の暗部がどんどん明かされる。最終的に主人公が会長に拉致されるところで引きとなる。

 メインヒロインが壊れる回。この後の11話の解決に向けて主人公とすれ違い、けんか別れするという過程はラブコメとしては王道である。しかし、この二人のいざこざに選挙戦に関係した学校の暗い部分のネタが合わさってくるせいで、少し話がぶれるところがある。というか、選挙戦の方が主軸でラブコメな部分がおまけみたいに思えてしまう。このあたり、明らかにウェイトの配分がおかしい。

11話 「捜索!」

 前回会長に捕まった主人公は、会長から治安部のスパイの実体から会長妹が植物状態になった原因大沢の暗躍まで、学校の暗部を色々と聞かされ、最終的に後援をこれ以上はできないと告げられる。更にスパイの話が急転直下で千里と主人公の関係の話に結びつき、お互いの秘められた愛が暴露される。後半、今度は主人公の機転で人質となっていた植物状態の妹を取り返し、蘇生することに成功。更にみーちゃんの説得で千里も主人公への愛に気づき、二人はお互いの気持ちをさらけ出すことでめでたくカップルになる。晴れて付き合いだした二人は選挙の本投票の前日にデートに行くが、その帰りに謎の覆面集団に襲われてしまう、というところで引き

 色々な問題があっさりと解決したうえで、最後にさらに新しい問題が出てくるという回。正直、この一つの回にメインヒロインとの恋愛要素の大団円に他のヒロインの重要イベントの消化と重要なシーンを盛り込みすぎてしまっている。一応、伏線となる要素は前の話までで出されていたりするので、形だけ見ると結構感動できるストーリー仕立てとはなっている。がしかし、話が詰まりすぎているため、余韻というものがほとんどないのが残念なところ。せめてここまで引っ張った千里との話はもう少ししっかりと時間を取ってほしい。妹の蘇生はご都合的だが、まあメインヒロインに比べると些細なのであまりきにならない。

12話 「投票!」

 前半、前回の襲撃され気絶した引きから目を覚ますと千里が拉致されており、主人公は犯人からの電話指示に従って町中を走りまわされることになる。投票日当日の最終演説が迫る中、主人公の不在に加えデマ記事が流されることで支持率が目に見えて低下していく。中盤、ショッケンメンバーにも連絡する手段が封じられている主人公だったが、目撃情報がメンバーの元に届き、ピンチにあることが理解される。ここから現会長と治安部の実力が発揮され、千里のさらわれた場所が判明する。更に前回目覚めた会長妹の隠し持っていた証拠により、実行犯である大沢一派の悪行も露見し逮捕。主人公も保護され投票会場へ向かう。演説時間ぎりぎりで駆け込み、やぶれかぶれの見た目ながら演説を披露。最終的には主人公が当選しショッケンも存続し、ハッピーエンドとなる。

 前回に引き続き、かなり詰め込んだハイテンポな話運びで終了。前半のピンチから中盤の巻き返しの解決は怒涛の勢いであり、少々ご都合と言われてもしょうがない面もあるが、だれることなくみられるという点で良い。アニメの最後の盛り上がりとなる演説シーンはなかなか印象的。言ってる内容はそこまでぐっとくるものではないが、とにかく中村さんの演技に説得力があるため、言葉以上に納得してしまうものがある。この迫真の演説のおかげで、前半の早足の割に締めとしてかなりしっかりしているように感じられる。最後は大団円ということで、後味も悪くない。

全体の感想

いい点、見るべき点

 ①キャラが可愛い

 元がギャルゲー、というかエロゲーなのだから当然とはいえ、女性キャラは誰をとっても可愛い見た目をしている。元のキャラデがいいのもそうだが、アニメに落とし込むうえでも原作の絵の凛とした雰囲気が壊されていない。全体の作画も安定しており、通して見るだけなら気になるところはまったくない。もっとも、目を見張るような動きや印象的な構図のシーンがあるわけでもないが。

 また、可愛さからはそれるがキャラを語るうえで外せないのが、各ヒロインに明確な「役割」を持たせている点。例えば、皐月なら「対立候補」青海なら「いじめ問題の象徴」みーちゃんなら「ヒロインと主人公を支える存在」というように、ヒロインとして以外にお話し上の役割を持ってキャラクターが動いている。これにより、各キャラのいわゆるお当番回を明確に設けることなく(東雲姉妹は例外だが)話の中で自然にキャラの個性が浮き立つようになっている。言葉にすると簡単だが、これのおかげで物語の圧縮率の高さにもかかわらずヒロインたちが印象に残るのはこの役割配分のおかげといえる。もっとも、ショッケン内部にいながら内偵としても動いていたミチルは性質の都合上、ショッケンメンバーの一人として没個性的な立場にしかいられず目立たなかったという残念な点もあるが。

 ②話のテンポがよい

 全12話に選挙戦のメインルートと各ヒロインの一通りのエピソードを入れ込むということで、かなりハイテンポに物語が進んでいく。普通、ゲーム上の各キャラのエピソードを入れてくとどうしてもメインの話に関係ないことが増えてしまう形になるのだが、このアニメの場合は選挙戦という軸がしっかりあるためそういったブレはほとんどないように感じられる。また、選挙や学園についての設定説明も話の中で上手く処理しているため、露骨な説明台詞でてんぽが落ちるという感じもない。主人公の演説シーンのように選挙戦まわりのシーンは記憶に残る出色なものが多いため、この要素に注目してみた場合はサクサク進んで楽しく見られるアニメになっている。

 テンポがいい理由と明確にかかわるかは分からないが、このアニメでは珍しく高山カツヒコがすべての脚本を書いている。これにより、話毎のムラと言えるような要素は全くなく、キャラのぶれや扱われ方の細かい差がないという点も推すべきポイントといえるかもしれない。

悪い点、問題がある点

 ①「いじめ問題」が提起されるだけでまったく解決されない

 各話の詳細でも書いたが、このアニメの問題点のひとつは「いじめ」という要素の扱いにある。上述のいい点では青海について「いじめ問題の象徴」と書いたが、実際のところ、彼女に対するいじめの話はこのアニメの中で「問題」として語られることはあっても明確に解決はされていない。それ以前に選挙戦の公約にいじめ問題についての言及をするかどうかで千里と主人公が争うシーンがあったりし、「いじめ問題についてはいま取り上げるべきではない」という旨のことをメインヒロインに言わせてしまってたりする。さらに最終話では大沢の口から「特定の生徒へのいじめを容認することで学内の治安が保たれてきた」という発言までされており、問題の解決についてはなにも描かれていないに等しい。現実に存在するいじめというファクターをこのように物語上の道具として使い捨てる形で処理してしまってる点は看過できる人とできない人がいる点であり、このアニメの抱える問題点の一つと言える。いじめの描写が真に迫る厭らしさだけに、この問題は浮き立って見える。

 ②メインヒロインとの恋愛要素が見てて違和感が強い

 選挙戦の話を詰め込んだ結果、メインヒロインである千里との恋愛関係の積み重ねがかなり物足りなく思えてしまう。千里の弟の存在やチョコレートが食べられないといったトラウマなど、伏線となる要素は各話で少しずつ出して張ってはいた。しかし、主人公が実は最初から千里が好きでその事実から目をそらしていただけ、という話は伏線がほとんどわからず最後のほうで唐突に出てくる話に思えてしまう。この手の「本当の気持ち」というネタは幼馴染ヒロインでは定番でありルート上では当たり前のこととして扱ってもいいのかもしれないが、アニメの中で当然のように話で出してくるのはどう頑張っても唐突のそしりは免れないように思える。

 これに加えて、上に書いた通り千里はいじめ問題についても触れない方がいいと言ったり、主人公に弟の代替として扱われることを拒否された後に精神的に不安定になって引きこもってしまうメンヘラぶりを発揮していたりする。このような点の積み重ねのせいで単純に視聴者から好かれにくくなってるというのもメインヒロインとしては問題と言える。

まとめの感想

 このアニメの感想を一言でするなら、タイトルにある「選挙」の部分はいいが「恋とチョコレート」の部分はひどい、に尽きる。最初から最後までしっかりとした話の軸として機能してる選挙戦の動向に注目してヒロインのことはおまけ程度に見るなら、かなり楽しく見られる。しかし、恋とチョコレートにあたる千里との恋模様に期待してみると、かなり幻滅してしまう内容になっている。

 高山カツヒコが一括して全話の脚本を書いているという事で、話毎の出来のムラがない。また、感動的なシーンの多くは余韻が足りないといった印象を受けるが、伏線となるべき要素についてはほとんどすべて前振りが漏らさずしてあるため整合性は高い。作画も安定している。これらの良い点と前述の悪い点を踏まえて、技巧的に上手い脚本のアニメ・単純に話が面白いアニメを見たいという場合にはそこそこお勧めできる作品である。個人的には悪い点がどうにも気になるが、作品自体は嫌いではない。

 

 

おまけ:一部ではこのアニメの話自体が民主党政権の発足した2009年の衆院選を受けた内容だという噂がある(2chがソースみたいなものだが)。実際にどのくらいその話を受けたかはわからないが、一部の描写についてその類似性を指摘している人はいた(参照:http://blog.goo.ne.jp/sapporomarines/e/801ee9a2c514094bc76cea69970f559f  中盤)。

 これを受けて考えてみると、次のようなことが言えるかもしれない。このアニメは最初「廃部を回避したい」というごく個人的な目的しか持たなかった主人公が戦術・戦略で支持率を伸ばしていき最後に学生のための政治に目覚めるという、最終話のスピーチで語られた内容そのままの物語である。その話の中で最初の「政治的意識のない主人公を祭り上げて有力候補の一角まで持っていく」という流れに実在する政党が行った選挙戦術を想起させるようなものをもってくる。これは一種の皮肉であり、同時にそうして当選した候補たちに主人公と同様に「政治的意識」に目覚めてくれることを求める願いの現れなのではないか。

 まあ現実とアニメやらゲームを結びつけるのはただの与太話なのでこんな話もただの妄想でしかない。