少し前のアニメ感想とか評価をしてみよう 第2回:Solty Rei

 今年の約束、今年のうちに。ということで、第1回以降、第2回がまったく出てないと言われてましたが某氏からの依頼もあってやっと書けました。題材が最近かと言われると怪しいですが、いいアニメなので感想まとめです。

 今回の記事、流れとしては

・あらすじと出自:あらすじに加えて、放送当時の様子、人気具合について。

・各話詳細・感想:各話についてちょっと詳しい感想。ネタバレもしてます。

・全体の感想:いい点・悪い点・総括の順でまとめの感想

となっています。視聴前の下調べ、視聴後の感想探しなど用途にあわせて適宜飛ばして読んでもらえれば幸いです。ネタバレはある程度避けますが、皆無では無理なのでそこら辺は自己責任でお願いします。

あらすじと出自

www.solty.net

 あらすじ:賞金稼ぎの男ロイはある日、機械仕掛けの少女ソルティと出会い、共同生活を始めることになる。ロイとの暮らしの中で様々な人と出会い、成長していくソルティ。そしてソルティの正体の謎に迫る中で世界の重大な秘密に関わる事件に彼らが巻き込まれていく、、

 2005年秋から2クールで放送されていたアニメ。制作はGONZO×AICの共同。「アマガミSS」「Working!!(一期)」「ももくり」などで有名な平池芳正の初単独監督作品。構成を「這いよれ!ニャル子さん」の木村暢が務め、全脚本も彼が担当した。

 浅野真澄斎藤桃子がパーソナリティを務めたウェブラジオ「SoltyReidio」が当時かなり人気をはくしていた。どのくらい人気だったかというと、タブリエの社長曰く「本編よりラジオの方が売れた」というほど。音泉10周年記念企画でも数ある番組の中から特別に復刻されており、そのほどがうかがえる。

 ラジオはふざけているが、本編の方はいたって真面目な作品。評価も高く、現在でもGONZOの良作のひとつとして数えられている。放送局がテレビ朝日ということで、少数精鋭と言われるテレ朝の深夜アニメの一角でもある。

 宣伝文句はSFミッドセンチュリーアクションアニメ。ミッドセンチュリーは1940年~60年代の建築、調度品の様式をあらわすデザイン用語であり、アニメの世界観もそのくらいの年代を彷彿させる。そのためSFと銘打ってるが未来感はあまりない。むしろ技術の進化方向がある時点で現代と別の方向に進んだパラレルものと言った方がしっくりくる。大型ロボットやサイボーグが古びた街並みの中でアクションする独特な雰囲気が生まれている。

 

各話感想

1話~4話

 ソルティとロイの出会いから始まり、主要キャラの顔見せがされる。ソルティという存在の謎とロイとの関係の深化が中心に描かれていく。個人的にソルティの人並み外れた力がもたらす孤独とロイの父親らしいやさしさが見える4話が非常によい。

 

5話~10話

  それぞれの日常やら事件やらがありつつ、3人目のメインキャラ、ローズ・ロイ・ソルティが近づいていくパート。各話1話完結であり、それぞれの話で登録市民制度やロイの過去など、世界観やキャラの設定が開示されていく。ローズとラスボスにあたるアシュレイが急接近する展開もあるが、これはいまいち唐突な感じがする。

 この辺りから如実にこの世界の治安の悪さが見えてくる。ソルティの無垢な言動を初めとして各キャラが穏やかなため分かりにくいが、この世界ではわりとあっさり人が死ぬ。その面が如実に現れているのが8話。明確に「殺す」という行動をとるキャラがいる。ほかにも未登録市民と登録市民の格差が描かれる6話など、全体にこの先のハードな展開を予想させる。

 

11~13話

 11話でローズがロイの生き別れた娘だと発覚したところから13話でローズが死ぬまでのパート。12話の爆弾魔との対決のパートはベタだが緊迫感がある。一方で13話は性急な印象。ローズが「自分はロイの娘だ」という事実を受け入れられず葛藤するところから「自分は自分」という結論にいたるまでを描くだけでも結構な濃厚さ。それに加えてロイとローズが生き別れた原因であるブラストフォールと似たような事故でローズが死亡するという対比構造を持った展開まであり、ちょっと駆け足気味。

 

14話~17話 

 実の娘ローズが死んだことを受け自暴自棄になったロイがソルティを追い出したところから18話の冒頭で再開するまでのパート。ここからの後半の話は1回1回の話の進展が多く、スピード感が出てくる。特に16話でローズが再登場してからは物語の謎が増えたあたりからは顕著。17話からのローズと職員たちのRUC内部でのいざこざからアシュレイが暗躍する展開も含め、話は加速していく。

 一方で15話にソルティがある青年と出会い死に別れるまでの話はやや本筋とつながりが感じられず浮いた印象、青年が唐突に登場するということが大きい。後々に必要な伏線となる出会いであるためひつようではあるが。

 

18話~23話

 ラスボスのアシュレイとの決着までのパート。この6話の流れはSFとしてもサスペンスとしても非常に秀逸。ローズがアシュレイに協力する理由が登録市民制度にあることから始まり、登録制自体が生まれた理由、アシュレイの目的、ソルティの正体などが連鎖的に明かされていく。リゼンブルというミッドセンチュリーな雰囲気に対して未来的すぎる技術の正体や謎の地下施設などの伏線が回収されていくさまは鮮やか。SF設定のち密さが見て取れる。

 アシュレイという強大な権力から逃れつつ立ち向かうという話運びが生み出すサスペンス感も見事。殺人の容疑をかけられて追われるという流れはベタだが常に緊張感が失われないように工夫されている。

    バラバラに逃げていた仲間たちが集合し、強敵に立ち向かうために散開する展開や世界観の急転換などとにかく情報量が多い。それでも説明だけの展開におちいらないのはストーリーのうまさに起因する。ソルティの機能停止やエウノミアからの攻撃など気になるような引きも上手く使われており、続きを気にさせるような作りになっている。

 

24話

   全ての話の終着点。この話こそこのアニメの中のベストオブベストといえる和数に当たる。23話までのサスペンス展開を終えたうえで最初は他人同士だったロイとソルティの間に親子の愛という関係が確かに芽生えていたことがわかるような終わり方がされるという見事なつくり。みんなを救うため身を挺そうとするソルティとそれを引き留めるロイの男泣きは涙なしでは見られない。感動を押し出しつつソルティの出自と移民船のコンピューターの目的など残された設定を明かすことも忘れない。ロイがソルティを宇宙まで迎えに行くラストも非常によい。

全体の感想

いい点、見るべき点

 SFアニメのだいご味のひとつは設定のち密さ、つくりこみにある。このアニメも細部にいたるまで考え抜かれた世界観が示されているのだが、賞賛すべき点はそれ以上にその設定の開示の手順にある。

 前半は街並みや調度品でミッドセンチュリーという雰囲気を醸し出しつつ「地下施設」や「リゼンブル」という不釣り合いな技術を見せることで、視聴者にかすかな疑問を抱かせる。そうして作った違和感に対し、後半に答えとなるような設定描写を入れる。それにより疑問に対する答えというカタルシスの形を作り出し、ただの説明セリフに陥ることを避けている。ここにさらにサスペンスの要素を加えることで後半の息つく間もない展開を実現している。この話づくりは前半に伏線を貯めて張る必要があるため、ある程度の尺がないと実現できないものであり、2クールアニメという枠ならではのものだと思われる。

 しかし、アニメの本質、メインとなるテーマは「親子」に収束される。ソルティとロイ、ローズとロイという2つの親子関係の遍歴が壮大なSFの世界観のなかでも丁寧に描かれている。親子愛はアニメのメインテーマとしては珍しいタイプであり、そのなかでも特に丁寧に描写されているのがこの作品である。このテーマに涙腺が弱い人にはつよくお勧めできる。

悪い点、問題がある点

  さすがに10年近く前の作品なので、一部のCGは今見るとチープでありちょっと浮く。重要なファクターとしては用いられないのでさしたる問題でもないが、気になる人は気になりそう。同じく作画の方面で言うと、全体的に色がベタっとした塗り方なのが特徴的。ミッドセンチュリーという世界観から浮かないためのものなので作画が崩れてるといった事はないのだが、繊細な影の描きこみなどを至上とするタイプの人には合わない。キャラデザも同様に抑え目で落ち着いており、派手な髪色のキャラがほとんどいない。ローズの金髪やソルティの緑色の髪が目立つといった効果もあるが、やはり好みになりにくい人も多いと思われる。

 前半の訴求力が高くないというのも問題。前半の単発回はソルティとロイ・ローズの関係が深化していく話を主としているため、後半と比べると進展が遅く見える。また前半では世界観の提示を美術などの雰囲気だけに任せているため、年代や科学技術のレベルんど現実との地続きな要素が把握しづらいというのもわかりにくい原因のひとつである。これは後半の世界観提示をスムーズにするための伏線にもあたるので致し方ないが、疑問が解消されないと話が呑み込めないタイプの人には合わない。

 

まとめの感想

 今だと珍しい2クール通しもの。お遊びの回もいくつかあるが、全体を通してかなり壮大な話がなされている。伏線の張り方と回収のしかたの秀逸さも見どころ。

 しかしSFを標榜しつつも難しい科学の話は外に置いており、本質はソルティとロイという親子の愛の話。「世界の命運がかかってる」と表現してもいいくらいの大きな騒動を通しておいて、最後は二人の関係性の話になるところは好みがわかれるかもしれない。個人的には最後の泣き所として上手く利いていると思う。最終回のロイの男泣きは感涙必至ポイントであり、装神少女まといなどでがっつり泣けた人にはぜひ見てほしい。